berlin cafe and more

Click an image, and you will see it large!

はじめてのドイツの海

ドイツのオストゼー(バルト海)にある、BINZという町に娘とふたりでいってきた。ここはドイツの北の島、リューゲン島に位置するリゾート地だ。かつては高級リゾート地だったようだが、いまや手ごろな値段のアパートタイプの宿泊施設や大型ホテルも出現し、随分一般大衆化しているという印象であった。

オストゼーではBinzが最大で一番人気のリゾート地という。これまでに行ったことのある人は口々にここがいかにすばらしいかを語ってくれて、話は尽きない勢い。旅行前はいやがおうでも期待に胸がふくらんだ。

しかし到着してみると、拍子抜けした。ドイツの海というものは、ハワイの海の色ほど(いつも)鮮やかではないし、高級リゾート地といわれているのにベニスのリド島ほどの華やかな雰囲気もない。かといって、エーゲ海ほどののどかさもなければ、日本の海にみられる夏祭りのような雰囲気も、パンチの効いた暑さもない。これまで縁のあった海と比べてみると、むしろ地味といってもいい外見だった。自分がこれまで想像していた「海水浴場」とは違う趣がある。断然落ちついている。ちょっと肌寒く、静かで、そのために海の存在感が圧倒的である。

最初の2日は比較的天気がよかったが、3日目は朝から深い霧。空と海は境界線を失い、白い砂浜と同じ白にすっぽり包まれた。それはとても幻想的な風景だった。

しかしこんな天気では海水浴など到底無理だ。風も強い。夏も夏というのに、気温は16度、水温は15度。強い風が時おり雲をふきとばし、思い出したかのように太陽が顔を出す。海と空と地面以外何もないここにいると、雲の切れ間からもれる強い日差しは、まさに神の恵みである。

地元の人にその日の天気予報を尋ねてみると「さあねえ。どうなるのかねえ。サプライズね」。ここの天気は不安定で刻一刻と変化するのが特徴らしい。海も、それにしたがって刻一刻と水面の色を変え、形を変える。

自分の勝手な「海水浴場」のイメージを壊してくれた気まぐれのドイツの海。しかし実際にそこに滞在してみると、魅力の秘密が見えてきた。それはこの海岸にあるStrandkorb(海岸の籐のかご)。二人用のカラフルなクッションがついた箱型ベンチで、足置きも、小テーブルもだせる。これは実は風の強いオストゼー独特の風除け対策で、普通は海に向いていない。海には背を向けて置かれている。一日10ユーロくらいで借りれて、中に砂遊び道具やら浮き輪などの私物を入れて鍵をかけることもできる(そしてドイツ人は自分の定位置を決めて毎日通う。平均的ドイツ人はここに3週間ほど滞在するのだ)。まさに小さな家である

ここで人々は時に(強風が吹き荒れる)海に完全に背を向け、時に(風がやめば)海を横目で眺めながら、時に(晴れた日には)海に向かって座り、何時間も、いや、何日も過ごす。居眠りしながら、本を読みながら、海岸で焼かれたあつあつのソーセージをほおばり、ビールを飲みながら。バスケットに持参したサンドイッチやフルーツを広げながら。ポットに入れたコーヒーを飲みながら。ワイン片手に星空を眺めながら。まるでやどかりのように、暑い日も寒い日も、朝も夜も、海岸での「滞在」を楽しむことができる箱なのだ。

ここでは泳ぐことでもなく、肌を焼くことでもなく、何かをするためでなく、ただ「いる」こと自体が楽しめる。寒い日には、快適な箱の中で海から直撃する風をさけ、大切な人と肩を寄せ合い、あるいは一人で、波の音や、かもめの声、足元をくすぐる砂に海を感じ、リラックスすることができる。もちろん天気がよければ、海にも入り、泳ぐ。泳げるほど暑くない日は、波打ち際をひたすら歩き、また箱に戻って休憩する。ちなみにこの「箱」はオストゼーが発祥で、ドイツの海の風物詩になっている。

夏でもこうなのだから、噂に聞く冬の海はさらに荒々しさを増すのだろうということには疑いの余地がない。しかし、ドイツには「冬に海岸を散歩して風に当たると風邪を引かない」といういいつたえがあるのだった。

鉛色の海に上がる白くて大きなしぶき。そんな海も案外いいかもしれない。このStrandkorbの中でそんな海を前にしたらどんな気分になるのか。次はぜひ冬の海を訪れて、その答えを感じてみたい。ドイツの海には完全に期待を裏切られたが、そのかわりに新鮮な感動と心地よい余韻をもらって帰ってきた。つまるところ、またここに来たいと思ってる多くの人の一人になったわけである。

comment