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秋の味覚

日本食が大好きである。和食だけでなく、和洋折衷、どの国籍の料理もいいものは日本人の手にかかったものが一番だと信じている。ラーメンやたこ焼きといったB級グルメだって世界に誇れる味だと思う。

でも長期にわたって食生活を送る場としてはドイツの方が気に入っている。なぜなら、果物や野菜が安いし、普段の食卓にふんだんに使えるから。

しかし、食材の味自体をいうなれば、日本から来たばかりだとこちらのものは決しておいしいとはいえないはずだ。市場で買う新鮮なものでも、くだものは野菜に感じられるくらい甘みがないし、野菜も泥臭く感じられるにちがいない。こちらの野菜やくだものは、手がかかっている高級なものでも、おいしく感じられることにはあまり手間隙かけていない。肥料や栽培法をいかに自然にするかに手塩をかけている。つまり野生的な味なのである。

オーガニック食品愛好家の知り合いがかつて熱弁していたことがある。
「市場で買った新鮮なイチゴを細かく切って、プレーンヨーグルトにまぜて砂糖をまぶしたら、ちまたのスーパーで売ってる某大手メーカーの『イチゴヨーグルト』と同じ、おいしい味になるかい?-もちろんならないさ。だって、市販品にはね、味や香りを強めるための合成添加物をじゃんじゃん使ってるんだから。おいしく感じるようにしてるだけなんだよ。自然の味とは程遠い。わかるよね?」

たしかに、どれだけ濃い牛乳が好きだと思っていても、市販のものだと随分加工してあるものだ。牧場で飲む絞りたての自然の牛乳を飲むと生臭く、おいしいとは感じられいのはそんな市販の(不自然な)味に慣れてしまっているからだろう。大型スーパーというところで買い物をするようになった現代人の味覚は、随分土や海から遠くなってきたのかもしれない。

ドイツではこの頃、安売りのスーパー内にも野菜のオーガニックコーナーがあるし、大型のオーガニックスーパー自体も軒並み増えてきた。かつての人工的な「おいしさ」よりも自然の味、健康な味にますます重点が置かれるようになってきた。昔ながらの青空市場も各町で続いていて、泥がたっぷりついた、土から上がったばかりの地域の野菜が簡単に手に入る。ほうれん草やきのこにはたっぷり土がついているし、料理するほうは案外手間取ることもあるが、新鮮さの証のようで料理していても、なんとなくうきうきする。

このごろの市場は秋の味覚が目白押しだ。食に関しては、日本に比べるとどちらかといえば保守的なドイツでも、日本の柿やいちじく、FUJIリンゴ、HOKKAIDOという名のついた日本風のかぼちゃなどが出回るようになり、市場もにぎやかになってきている。今の時期ーといってもそろそろ終わりだが、秋に一番面積を取るのが写真のきのこ類だ。量が半端じゃなく多い上に、安い。きのこはこってりしがちな洋食を中和するのにうってつけだし、和食にもあう。シーズンの初めにはサーモンと緑黄色野菜とのホイル焼きに凝ったのだが、これだけ量が多いとふんだんに使えるし、栄養のバランスも整い、簡単で豪華な食事になる。だからお気に入りの一品。

これだけいろいろな種類のきのこが出回っているというのに、実は私が一番好きなきのこは普通の白いマッシュルームだったりする。大きなパックに20個くらい入って1ユーロちょっと。これまた日本では考えられないくらい安い。

マッシュルームを使ったレパートリーで一番好きなのは、苦味のきいたルッコラのサラダにスライスしてまぜて、バルサミコとオリーブオイル、塩コショウで味付けをしてパルメザンをかけるだけのシンプルなサラダ。ごま油としょうゆで和風にもなる。オムレツにもざくざく入れるし、パスタだと、たまねぎのみじん切りとつぶしたケーパー(小さな花のつぼみの塩漬けといったところか)に、大量のマッシュルームとズッキーニのスライスを入れると最高においしい(熱される前のたっぷりめのオリーブオイルでじっくりにんにくをローストするのがコツ、と夫に教わった)。ローズマリーと一緒にチキンを焼くときにも、マッシュルームを添えるとそれだけで風味がぐんと増す。マッシュルームはこうやって少しずつ料理の幅を広げてくれるし、料理の名わき役をいつもきちんと演じてくれる、おきにいりの食材だ。

ところどころ泥がついている、真っ白できれいな丸の形。滑らかなビロードのような表面。これをすっとナイフでスライスするときの、柔らかな感触。これらの一連が、いつしか私の中では、おおげさかもしれないが豊かな食生活の象徴になっている。ドイツを去りたくない、ここにずっといたいなあ、という気持ちは、案外こういう小さいところから来ているのかもしれない。

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