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Odeon

想像力の欠如か、教科書にでてくる歴史は苦手である。

しかし実際に手で触れることのできる、目で愛でられる古い「もの」にふれると、純粋な喜びを感じる。アンティークと呼ぶにふさわしい本当に古いものでなくても、いくばくかの時を経てきたものは新しいものにはない魅力が宿っている。

特に人の実生活や食という日々の喜びの基本にかかわりの深いカトラリーや器に惹かれてしまう。戦火を逃れたり、人の手を渡ったり、海を超えたり、毎日の食卓で家族とともにあったり、特別な日だけ食卓に上るお祝いの証人であったりして大事にされ、今に至っているはずのものたち。

数年使っているだけでナイフとフォークの数が合わなくなっていたり、お皿がひとつ欠けたりしてしまうことがあることを思うと、人の人生より長く生きて無傷で数が揃っているだけでも丁寧に扱われた証拠で価値があると思うのだ。

そのような、背負ってきた過去のストーリーで箔がついている部分もあるのだが、実際のところ昔のものは、物がいい。長くもつように丈夫に作ってあるし、現在のように物が氾濫してなかった分だけていねいにつくられている。ちょっとよいナイフとフォークのセットを買うなら、何の変哲もない新しいものを買うよりも、その予算そのままで手ごろなアンティークを買ったほうが良いものが手にはいる。もちろん、取りあえず今日明日使うという程度の急場しのぎの新しいものはいくらでも安く買える。とはいえ、いってしまえばこれも結局「セカンドハンド」で買ったほうがさらに安い。

かくいう私もドイツに来た当初は自分用と「ハウスウォーミングパーティー(引越しした直後に知人に新しい床を暖めてもらうという意味の集まりで、新生活に必要なキッチン用品などをプレゼントしてもらう)」用にガラクタのお店でセカンドハンドのナイフやとフォークを20ほどばらばらに買った。当時一本1マルク(約75円)。ただの中古品だが新しい物を買うよりも何倍も安く、かといってアルミやプラスチックというわけでもなくちゃんとした物であったのでそれこそ最近まで使っていたものだ。

しかし、その昔イギリスなどで満喫したアンティークマーケット巡りを再開してから、ここのカトラリーのよさに気付きもう少しいいものに買い換えた。7、80年ほど前のものであれば、巧みな装飾がありかつ実用向きの素敵なカトラリーがとても安いのだ。新品のカトラリーはドイツではとても高く、ちゃんとしたものだと、現在のデザインの流れで装飾はほとんどといっていいほどないものが12人用のフルセットで5、6万円はする(もちろん銀仕上げではない)。しかし、古いものだと12人用のナイフとフォーク、スープスプーンだけのセットで3~4万円くらい出せばわりといいものが手にはいり、これくらいなら普通はどれも銀仕上げでとても味がある。

それ以外の小さなティースプーンやケーキフォークなどは、必要に応じてあとで買い足していけば十分。普通はなんでもセットで買ったほうがお徳だが、アンティークの場合はセットで揃っているということにも価値が置かれるので、ばらで買ったほうが安いこともある。それにこの程度の値段のものなら時代別、ブランド別に流行ったデザインがたくさん出回っているので、あとで同じ時代のスタイルのものをさがしてまわり、安く手に入れて自分で完成させていく楽しさもある。

簡単に目を引く豪奢な装飾や、実用に不向きな繊細なつくりのものは、それにふさわしい裕福な人たちやスノッブ達の暇つぶしの話題提供にゆだねるとしても、それ以外に実用使いのいいアンティークがたくさんあるのだ。とくにドイツは物を大切にし実用を重視するお国柄を反映してか、シンプルだがあきのこないフォルムや、眺め使うほどに愛着がわくデザインの食器やカトラリーの宝庫である。たくさんの国境で他国とつながっており東欧諸国や北欧からもいいものがはいってくる。

しかし、「それ」を見つけるのは自分次第。銀食器でまぶしいほどのロンドンのポートベローや、規模が大きく華やかなパリのクリニャンクールの蚤の市でも、なにひとつほしいものを見つけられないこともあるし、こんな小さな旧東ベルリンのアンティークマーケットでも飛び切りの掘り出し物がみつけられるかもしれない。それは偶然でもあるし、運でもあるし、こんなのが好きという自分の意思なのだろう。

数ある品揃えの中からでなくとも、一般的なアンティークそのものの価値と必ずしも関係していなくても、自分だけのお気に入りをひとつ見つけられたら、それはちょっとした幸せでさえある。それが毎日の生活に登場するものであれば、幸せは細く長くずっとつづく。

ここは、フリードリッヒ通り駅を出てすぐ、高架下のミニ・アンティーク街。40件ほどのとても小さなアンティ-クショップが軒を連ねる。そしてそのほぼ最後に古いカフェ「ODEON」がある。

昔のエナメルの看板で埋め尽くされた高く丸い天井からは、古い映画のスポットライトとメリーゴ-ランドの木馬がぶら下がっている。いい出会いがあった日は、ここでより一層おいしくコーヒーが味わえるし、運命の出会いがなかった日だって、こころはお祭り気分でお茶が楽しめる。(Dec.2005)

  • 03.Apr.2009
  • by aya