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City night line (Night-train)

ひきつづき鉄道に縁がある。厳密には縁を引き寄せているというべきであるが。出張の交通手段に片道だけ寝台を使ってみた。

 

片道でもノーマル料金であれば、最も早くて便利な飛行機や次に早くて便利なICE(超特急)の往復よりも、高い。しかし、いまやドイチェ・バーンの定番となっている格安料金プランを利用すれば、片道は格安料金のICEを使い往復で考えると結局はICE往復くらいの料金に抑えられる。

 

この寝台は深夜にフランクフルト南駅から出発し、ベルリンへ向かうものだったが、驚いたのはその乗客数。10人いるかいないかだったのである。その後に乗車する人はほとんどいないだろうから、実質はそれだけのために何両もの車両をたずさえ、運転手や、車掌などをのせて600キロを一晩かけて駆け抜ける。

 

このフランクフルトからベルリンの区間はかなり頻繁に走っているICE(日本の新幹線にあたる)なら4

時間程度。その区間をこの夜行列車はわざとのんびり時間をかけてゆっくり走らせる。でなければ、早くつきすぎてしまうほどの短い距離である。

 

朝のよい時間に到着させるためにか、出発時間は0:55。仕事は18時には終わったので、それから、その日のうちにベルリンに戻れる何本かのICEを見送っての出発である。しかも到着は当然ながら翌朝なので、職場に直行しなければならなかった。

 

時間短縮、無駄をなくす、という世の動きに対抗するかのように走る夜行列車は過去からの贅沢な遺物だ。その昔には、時間を無駄にしないようにと考案されたはずの乗り物が、今は、時間をくう乗り物になっている。

 

しかも、どの交通手段より高いときている。時代の流れとともにかつて重宝だったものが必要とされなくなった例は、いくらでもあるだろうが、それにまた別の価値を見出されて存在しつづけるという例は少ない。

 

この寝台はなぜ今でも存在しうるのか。不思議でならないが、それが移動の道具として、速さや便利さ、経済性以外の価値観で再評価されて存在しつづけているのなら、すばらしいことである。やはり夜行には旅情緒がある。それに夜遅く、朝早くにしか時間が取れない職業などの人もいるだろうから、そういうところも現役でありつづける理由かもしれない。

 

便利な世の中、たいていのところはどこへ行くにも次から次へと電車やバスがくる。たとえば次のバスが15分後に来る場合は「15分でくる」ではなく「15分もこない」と考えるのが常識になっている。日本であれば都市によってはそれは5分かもしれない。たとえば交通公共機関などが発達していない未開の国にいっても、ツアーにのれば、1分と待たされることなく専用バスがあっちからこっちへと迎えに来てくれる。

 

この夜行に乗るために、しかし、先進国の一大都市で7時間待った。そして18時のICEに乗っていれば22時にはベルリンについて、翌朝シャワーを浴びていつも通り通勤できたものを、翌日の未明に睡魔と闘いながら乗車し、乗車したらしたら寝付けずうとうとしているうちに到着し、会社に直行して、睡眠不足に疲れた体を鞭打って仕事しなければならなかったのである。なにやら悲惨な体験のようにも響くが、実際はなぜかまた機会があれば積極的に利用したいという気持ちになっている。

 

旅の情緒というのは、移動や勝手の違いなどの「不便さ」のなかでこそ生まれるものではないか、とふと思う。勝手の違い、不便さ、一見無駄と思われる時間のなかで、人間的な感情が余儀なくあふれ出した結果、旅先の美しい景色とあいまってかもし出される雰囲気ではないだろうか。

 

たとえば乗継がうまくいかず次の電車をのんびり待つしか仕方がないときに、なすべもなくただ目に入ってくるばかりの異国の景色をぼんやり眺めている時。言葉が通じずお手上げで、とにかくカフェを一杯飲んでほっとため息を漏らす時。そういう時々に旅情緒は感じられる。

 

すくなくとも効率的で、時間的な無駄がなく、不便がまったくないような旅には情緒のかけらもない。その証拠に、バスツアーで効率よく各観光都市の見所を全て網羅するようなツアーは記念になるかもしれないが、旅情は感じられない。

 

空港に待機していたリムジンが丁寧に観光に連れ出してくれたとしても、それはエキサイティングではあるかもしれないが、旅情には欠けるような気がする。やはり予期せぬ、またはしばしの手持ち無沙汰な時間が、美しい景色をもつ非日常的空間で発生したときに、それが旅情緒を生むのだと思う。

 

需要と供給の法則に忠実に従えば、この近距離間の夜行列車は近く廃線になってもやむを得ないだろう。ドイチェ・バーン(ドイツ鉄道会社)もこの調子だと採算が全くあわないはずだ。だから今のうちに、また乗ってみたい。普通の旅行では今の時代なかなか感じられなくなった旅情緒を愉しむために、また夜行列車の旅をしたいと思う。

  • 02.Apr.2009
  • by aya